地元の人に愛され続けるラーメン屋さん
「うちの自慢はお客様なんです」。
「お店の魅力を教えてください」という質問をした時に『らあめん藤』の店主の阿部利徳(あべ としのり)さんが答えた内容だ。
「自家製麺が自慢です!」や「じっくり煮込んだスープ」などの回答が来ると思っていたから一瞬拍子抜けした。
お客様が自慢のラーメン屋さん?
頭の中は「?」でいっぱいだ。
私が言葉に詰まっていると阿部さんが続けて言った。
「うちに通っているお客さんは、ありがとうやご馳走様をきちんと言ったりととても感じの良い人が多いんです。それに何年も通い続けてくれる地元の人もたくさんいます。子供の時に来てくれて、大人になっても来てくれることもあるんですよ。
たくさんのお客様に支えられていて、今の僕がいるのでお客様には本当に感謝しています。恩返しというのはおこがましいかもしれませんが、何か返せたらいいなと思いながら毎日ラーメンを作っています」。
阿部さんの人柄がひとつひとつの言葉に滲み出ていて、胸が熱くなった。
“地元の人を喜ばせたい”
これは阿部さんがラーメン作りをする軸となっている思いだ。
決してよその人にラーメンを食べに来て欲しくないわけでない。
この土地でラーメン作りを続けさせてもらっているという感謝の気持ちからくるものなのだ。
“地元に愛されるラーメン屋さん”
その言葉がストンと胸に落ちてきた。
始まりは「このままではいけない」という気持ち
阿部さんがラーメン屋さんを始めようと思ったきっかけは、決してラーメンが大好きという理由からではなかった。
高校を卒業した後は、アパレルやホテルの営業、携帯ショップとお仕事を転々とした。どの仕事も阿部さんにしっくりとくるものがなく、長くは続かなかったという。30歳を過ぎた時、ふとこんな考えが頭に浮かんだ。
「このまま何となく仕事をするだけではダメだ!だけど、自分には何ができるのだろう?」
そんなことを考えながら本屋に入ると、ある言葉が書かれた本を見つける。
“自分で始めるのなら飲食店がオススメ”
「何も持っていない自分が1から始めるには、フランス料理やイタリア料理は敷居が高いイメージがあったので、抵抗がありました。その結果、消去法で残ったのがラーメン屋でした。だから、ラーメンが好き!とかではなく、自分にできることはラーメンなのかなと思ったのがきっかけだったんです」。
ラーメン屋を始める人はきっとラーメン好き、というのは私たちの勝手な偏見だ。
阿部さんは、ただ何かを始めたいからラーメン屋を始めたわけではない。
ラーメンを第3者の目線として見ることができるので、よりお客さんに寄り添ったお店ができるのではないかという考えがあったからだ。
自分のこだわりを入れ過ぎないで素直にお客さんの要望を受け入れることができる。そんなラーメン屋があってもいいのではないか。
阿部さんの中でラーメン屋を始めるという気持ちが大きくなってきた。
ラーメンを作ったこともなくいきなり開業は難しいので、3年ほど、ラーメン屋で修行をした。
そこでラーメン作りの基礎を取得しながら、開業のためのノウハウを学んだ。
「ラーメンを作るという仕事が思ったより嫌ではなかった。自分に合っていたんだと思います」。
たくさんの技術を学び、着々と開業の準備を進めていった。
そして、2003年12月『らあめん藤』が帯広にオープン。
阿部さんが34歳の時だった。
「開業した時は、正直お金もなかったからあるものを寄せ集めてお店を作りました。お客さんの入りもあんまり良くなかったから、暇な日も結構あったかな。立地もあまりいい場所ではなかったから、3年でここを出ていけるように頑張ろうと思っていました」。
ラーメンと向き合う毎日を過ごし、少しずつファンを増やしていった。
2年が経った時に、阿部さんと音更町を繫げる運命の時が訪れる。
「音更町にいい土地があるんだけど、見にこない?」
最初から引っ越しを考えていた阿部さんは、すぐに返事をして音更町へ車を走らせた。
「土地を見た瞬間ビビッと来るものがあった。これは隣にいた妻も同じで2人して顔を見合わせて即決しました。運命というのは大袈裟かもしれませんが、何か感じるものがあったんだと思います」。
引き寄せられるように場所が決まった。
これはうまくいく。そう確信した瞬間だった。

移転オープン1日。
平日で150人、土日だと200人〜300人が訪れるほど盛況した。

「移転してからの2〜3年は忙しくて大変だった。夜中まで仕込みをして、朝7時に営業準備を始めるという毎日を繰り返していました」。
大変だと語る阿部さんは笑顔で、大変ながらも楽しい思い出なのだと伝わってきた。
順調な滑り出しでスタートしたが、確かな味と阿部さんの人柄でお客さんは絶えずに15年の歳月が経った。
“勢いのあるラーメン屋さん”から“地元に愛されるラーメン屋さん”に緩やかに変わっていく。
そして、来年の4月にリニューアルオープンする『道の駅おとふけ』にお店を移転することが決まった。
『らあめん藤』にとって、2回目の移転で新しいステージになる。
「お店のコンセプトでもある“小さな町の普通のラーメン屋さん”は道の駅に移転しても変わることはないです。お客さんに『らあめん藤』で普通なら他のお店はどんだけ美味しいのだろうと思って欲しいという気持ちが込められています」。
ここでも阿部さんが考えているのは、やっぱり地元のことだった。
音更町の特産を使った唯一無二のラーメン
『らあめん藤』の自慢の一つである自家製麺。
阿部さんが丹精を込めて作っている。
使用している小麦はもちろん音更産だ。
コシがしっかりとあり、スープとよく絡むのが特徴。
噛めば噛むほど、小麦本来のおいしさが滲み出てきてさらに箸が進む。
スープも時代に合わせて少しずつ変わっていく。
「常に自分が食べたたいと思うものを追求しているので、自然とスープの味も変わっていきます。きっとこれからも変わり続けると思います」。
10年後、『らあめん藤』はどのように変わっているのだろう?
きっと、10年後も地域を想う阿部さんの姿があって、地元の人にずっと愛
されているお店なんだろうなあと思った。
阿部さんの作ったラーメンを食べると音更町がもっと好きになる。
それは地域を思う阿部さんの想いがラーメンに込められているからだ。
そんな不思議な魅力を持ったラーメンはきっと他にはない。
『らあめん藤』は間違いなく、町の自慢のラーメン屋さんなのだ。
らぁめん創房 藤
住所:音更町木野大通東10–4–1
☎︎:0155–30–1010
営業時間:11:00〜15:00(L.O 14:30)
定休日:火曜
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