故郷を思い出させてくれたのは、心も身体も休まるとっておきな温泉

帯広駅から車で約10分。閑静な住宅街を通り抜けて丘を登れば『丸美ヶ丘温泉ホテル』の看板がお出迎えしてくれる。そこを曲がると木が立ち並ぶ一本道に。進めば進むほど、「さっきまで住宅街だったのになあ」と思うほど、鳥の声や動物たちの声が行き交う。

時間という概念がないんじゃないかなという錯覚に陥るほどゆったりとした空間。鼻をかすめる森林の香り。これから向かう『丸美ヶ丘温泉ホテル』へ期待が少しずつ高まっていく。

今年で創業46年目を迎える『丸美ヶ丘温泉ホテル』は、昭和にタイムスリップしたようなレトロな建物が魅力。銭湯のようなカウンターにのれんの上に書かれた「婦人浴室」という文字。どこを切り取っても昭和の名残を感じられる素敵な空間だ。

北海道遺産にも登録されている“モール温泉“の源泉を使用。温度が異なる2種類の温泉を楽しむことができる。浴室の大きな窓からは、サンセットや四季折々の風景を眺めることも。トロリとした琥珀色の温泉が疲れや不安を全て洗い流して、心も身体もスッキリさせてくれそう。

取材中に何人かの常連客がホテルに訪れたが、なぜか全員知っている人のように感じる…。

この不思議な居心地の良さはなんだろうと、ふと疑問に思った。

「おはようございます!」

元気で挨拶してくれたのは、このホテルで働く後藤 陽世(ごとう はるよ)さん。

家族経営の『丸美ヶ丘温泉ホテル』で物心ついた頃から働きホテルと一緒に成長してきた。

だけど、思春期は仕事と生活の境界線がない生活が嫌だったとか。「私が学生の頃は、宴会などもたくさん入っていて夜中とかもお客さんはどんちゃん騒ぎ。ホテルと家が隣接しているので、酔っ払ったお客さんが間違って私の部屋のドアを開けようとしたり。それが学生時代は嫌でした。あと、昔はレストランで食事をすることが多かったので家族でリビングでご飯を食べることにも憧れましたね」。

生活と仕事が入り混じる環境は、家族経営ならではの悩みかもしれない。

高校を卒業後、札幌の大学に進学した後藤さん。地元を離れることは寂しくなかったそう。

「学生時代は、夏休みや冬休みも仕事のお手伝いをしていましたが、それから解放される!友達と遊ぶことができる!とはしゃいでいました。それから就職も札幌にしたので約13年間過ごしましたが、アメリカに留学したり、オーストラリアで就職したりと色々なことを経験させてもらいました。もちろん大変なこともあったけど、それがあるから今の私がいると思うと全ていい思い出です」。

そして隣には、札幌で出逢った旦那さまの姿が。

「彼とは友人関係が凄く長かったので、ゆっくりと信頼関係を育てていきました。十勝に戻ると決めた時に、一緒についてくれたのが嬉しかったです。この十勝の地で彼なりに感じることがあったから、一緒にやっていこうと思えたのかもしれません。オーストラリア出身の彼は、温泉が常に流れ続けているのに驚いていました」。

そう言って微笑む後藤さんは本当に幸せそうで、私まで幸せな気持ちになってきた。

カウンターの横にある存在感抜群のシカの剥製は、創業当時から住んでいる守り神のような存在。「この鹿の剥製は、創業当時からみんなに愛されてきました。一緒に写真を撮ったり、子どもたちがたくさん撫でるので、ヘアロスしているところもあるんです」。

後藤さんが十勝に戻ろうと思ったきっかけは、平成18年にお父様が亡くなったこと。

「母を助けないと!」という感情が全身を駆け巡り、十勝に戻ってきた。目には見えないけど、永遠に途切れることはない親子の絆を感じるエピソードだ。

1度離れた十勝に戻ってきた後藤さん。

後藤さんにとって、十勝とはどんな存在なのだろうか。

「私は大学に進学する為に十勝を離れています。だからこそ気づいた魅力がたくさんあるんです。やっぱり十勝は自然も豊富で食べ物も美味しい。そして、人も暖かいので生きていく上で足りないものが何もない土地だと思うんです。都会には都会の良さがあると思うのですが、過ごしてみてしっくりと来たのはやっぱり十勝でした。そう思うと、私の故郷はこの場所なのだと実感します」。

コロナ禍で暗くなっている世の中も後藤さんの目線から見れば、マイナスのことばかりではない。「確かにコロナが流行って色々な価値観や世の中の動きが変わりました。でも、この期間で家庭や自分と向き合う時間も増えたと思うんですよ。外で楽しむことだけでなく、大切な人とおうち時間を一緒に過ごす。嫌なことだけに目を向けるのは簡単だけど、いい事もきちんと見つける目も育てていきたいですね」。

大変な時期だからこそ、嫌なことだけでなく良いことにも目を向ける。私たちもそんな気持ちをずっと忘れずに生きていきたいと思う。

最後に、これからの『丸美ヶ丘温泉』のことを教えてくれた。

「国籍や性別みんな関係なく、色々の人がくつろげる場所になってほしいなと思っています。お疲れ様やありがとうなど何気ない会話を大切にして、お客さんとのコミュニケーションをずっと大切にしていきたいですね」。

取材を終えて、私はこのホテルの居心地の良さの答えを見つけることができた。

初めて来た場所なのに、懐かしい気持ちになれるのはきっと故郷のあるべき姿に似ているから。

単純に生まれ育った場所という意味ではなく、どんな時でも暖かく出迎えてくれる場所。

頑張りすぎてしまった時、悩んだ時、不安な時、私はまたこの場所に訪れたくなるんだろうなと思う。


丸美ヶ丘温泉ホテル(まるみがおかおんせん)

住所:音更町宝来本通6–2

☎︎:0155–31–6161

営業時間:大浴場10:00〜23:00、個室家族風呂 日曜12:00〜23:00、月〜土曜 14:00〜23:00

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